*** サルでも分かるアフガニスタンPARTU ***

                                                      
2.アフガニスタンにおける援助活動

2ー1 援助活動の環境


 
  アフガニスタンの援助活動は簡単ではない。その理由は、以下のようなものである。

  1)まず、そもそも自然条件が厳しい。
    カンダハルやヘラートの夏はだいたい摂氏40度を越える毎日であり、
    6月に一度立ち寄ったファラはその日、摂氏52度、日陰で48度であった。
     逆にカーブルは海抜1700mにあり、
    夏はしのぎやすいが4月でも寒くて暖房なしでは眠れなかった。

  2)電気、ガス、水道などのインフラストラクチャーが破壊されていることが、
    生活条件をいっそう
    厳しくしている。快適さのみならず、衛生面での影響が大きい。

  3)厳格なシャリア(イスラム法)の適用がイスラム教徒以外の人間、
      特に女性には苦痛である。

      女性が顔や肌をさらせないだけでなく、
      男性もショートパンツなどで外をぶらぶら歩けない。
      音楽、酒は禁止で、娯楽がない。
      夜はだいたいどこでも外出禁止令が出ており(たとえそれがなくても)、
      仕事の後は行くところがなく、自分の部屋に帰るだけである。

 4)通信手段が限られている。電話線は一部繋がっている地域もあるが、
      ほとんど切断されており利用する価値はほとんどない。郵便はない。
      衛星電話はコストがかかりすぎるので日常的には使えない。
      そのためにアフガニスタン内ではもっぱら無線機に頼る。
      パキスタンとの連絡には国連機にパウチを運んでもらうか、シトーを利用する(注1)。
      いずれにせよ、迅速な意志疎通ができないことが活動を非常に困難にしている。

  5)交通事情の悪さ。アフガニスタン内の交通手段は車である。
      その他は、馬、ろば、らくだなども利用されているが、
     援助機関がそれらを使えば一般市民が困るであろう。
     道路の破壊が激しく、これが車による交通を著しく妨げている。
     また、地雷がクリアーされていない地域が果てしなく残っており、
     これによって活動範囲がまた著しく制限されている。
     アフガニスタンとパキスタンの間は国連機または赤十字機を利用するか
     車を利用して行き来する。

     国連機は運賃が非常に高く、援助プロジェクトの予算を圧迫する。
     例えば、イスラマバード・カンダハルの往復は1260ドルである。
     民間機の東京・イスラマバードの往復が1130ドルであることを考えると
     国連機は異様に高いと思われる。
     赤十字機は無料であるが、ペシャワル発着であり、
     かつ赤十字職員もしくは医療物資などを優先するという原則なので、
     離陸直前までキャンセルされる可能性があり、使いにくい。
     車でイスラマバードからカーブル、
     もしくはクエッタからカンダハルへ行くことも可能であるが、
     体力と時間に余裕の無いときは利用しない方が賢明である。
     地雷の爆発や砲撃のおかげで、道路が穴だらけでスピードを出せず、
     むち打ち症を防ぐために常に前方を見て身体の揺れを合わせる必要があるので、
     疲労度は激しい。

 6)援助ずれしたアフガン人による問題。
     アフガン人は過去約17年間国際社会から援助を受けてきた。
     この援助が多くのアフガン人の生命を救うことに役立ってきたが、
     その間に多くの援助長者を産み出してきたのも事実である。
     ロンドン、ジュネーブ、パリなどに邸宅を持っているアフガン難民に出会うことは珍しくない。
     アフガンNGOのかなり多くが(ほとんど全部という者もいる)、
     こういう援助長者によって運営され、
     国連職員よりも国連のお金の引き出し方を知っている。
     数年ごとに交替していく国連職員は彼らに騙されたことに気が付いた時は転勤で、
     後任者がまた新しい獲物になるということが繰り返されている。
     これは援助活動を疎外する大きな要因となっているが、
     こういうことを追求すると身を危険にさらすことになるので
     結局、本格的な調査は行われない。

 7)信頼できる銀行システムが動いていない。
     そのためパキスタンとアフガニスタンの間でのお金のやりとりが非常に不便である。
     大量の現金を何らかの手段で運搬しなければならず、危険がともなう。
     かさばらないドル紙幣を運搬するのが普通である。
     アフガン通貨の両替率が安定していないので、
     現地での支払もドルのままで行うのが普通になってきている。
     (UNOPS、UNHCR等々。しかしIOMはなぜかルピー支払い)。

 8)最後に、言うまでもないことだが、アフガニスタンは内戦中であり、
     常に予測不可能なことが起こり得るという緊張感が、程度の差はあれどの地域でもある。

     こういう環境の下で、世界各国の人が集まって援助活動に従事している。

2ー2 援助活動のプレイヤー

    アフガニスタンの援助活動に関わっている国連機関は全部で11機関、
  NGOは正確な数が把握できないがACBARのデータに出てくるだけで約220(注2) 、
  実数はその倍はあるだろう。
  国連でもNGOでもない機関に、ICRC(国際赤十字委員会)、
  EU/ ECHO(ヨーロッパ共同体)、IOM(国際移住機関)などがある。

アフガニスタンで活動している国際機関

国連機関                   日本名
FAO:                 国際連合食糧農業機関
UNCHS/Habitat:          国連人間居住センター
UNDP:                国連開発計画
UNESCO:             国際連合教育科学文化機関
UNHCR:              国連難民高等弁務官事務所
UNICEF:              国際連合児童基金
UNOCHA:             日本名不明(United Nations Office for coordination of Humanitarian Assistance)
UNOPS:              日本名不明(United Nations Office for Project Services)
UNOPS/CDAP:         日本名不明
WFP:                 国連世界食糧計画
WHO:                世界保健機構
TWG RR:              日本名不明(いくつかの国連機関とNGOの共同プロジェクトチーム)
UNDCP:               国連薬物統制計画


その他の国際機関             日本名
ICRC/IFRC:            国際赤十字委員会/赤十字・赤新月社国際連盟
EU/ECHO:              ヨーロッパ共同体
IOM:                 国際移住機関
 

   アフガニスタンの面積は広大であり、
   しかも援助活動に参加している国際機関・NGOの数が多いため、
   それらの調整は援助活動全体の有効性を高めるためには非常に重要である。
   地域別偏りや、分野別偏りを避けつつ、緊急性に配慮してプライオリティーをつけ、
   限られた資源を配分しなければならない。
   例えば、橋や道路を作るプロジェクトばかりにお金が回って、
   医療関係にお金が回らないとか、
   同じ地域ばかりにプロジェクトが投入されるというような事態は避けなければならない。
   しかし、同時に何よりも緊急に食糧を配給しなければ住民の生存が危ぶまれる地域も存在し、
   そこへの緊急食糧援助にはやはりプライオリティを置かざるを得ないだろう。

 

       各国連機関にはそれぞれ独自のマンデートがあり、
   それぞれの範囲で仕事をしている限り、重複した活動など起こらないはずだが、
   実際は微妙な活動分野があり、国連機関相互の調整はやはり必要である。
   そのための国連機関としてUNOCHA(注3 )があり、この機関は調整を専門とする。
   UNOCHAの調整活動として具体的に知られているのは、
   次節に述べるようなドナー国に対する資金の要請が主なものである。
   それ以上に前段のような実質的な調整に踏み込む必要性は
   UNOCHAの報告書などにも述べられているが、
   実際にはそこまで行われていない。
   そのためか、他の国連機関及びドナー国の中にはUNOCHA不要論がある(注4) 。

      NGO間の協力調整をするNGOとしてACBARがある(注5)。
   ACBARの本部はペシャワルにあり、
   今年はアフガニスタン内(カーブル、ヘラートなど)にも事務所を開設した。
   ACBARには、アフガニスタン内で活動するNGO(Agency for Afghanistan)として220、
   パキスタンに居住するアフガン難民のために活動しているNGO
   (Agency for Refugees in Pakistan)として79が登録されている。
   毎年、各NGOの活動状況をまとめた報告書を作成し、援助関係者に無料で配布している。
   NGOのドナーとなる国連機関、各国大使館がある特定のNGOについて調査する際には
   まずACBARに問い合わせることになる。
   また、NGOがアフガニスタン内で活動するためには、タリバンに登録しなければならないが、
   登録する際にタリバンが要求する費用や条件が承諾できないものであった場合、
   ACBARが交渉役になる(注6) 。
   タリバンが出す御触書みたいなもの(アフガン女性はブルカ着用すべし等々)は、
   ACBARから各援助機関に回される。
   NGOがタリバンとの問題(NGO職員が逮捕されたり、殴られたり)に巻き込まれると、
   当事者のNGOと共にACBARも解決に協力する。
   こういうセキュリティ問題のレポートは、関わった各NGOで作成されACBARに送られる。
   そこからアフガン他地域やイスラマバードの援助機関にも転送される。
   その後ずいぶん後になってUN Weekly Update でそういう事件を確認する
   (これもUNOCHA不要論を支えているのだろう)。
   現地の援助関係者の間では、一般的に「調整」活動を軽視する傾向があるが、
   UNOCHAよりはACBARの方が実質的なメリットがある点でまだましと思われている。
 
 2ー3 アフガン援助の予算状況

   国際社会へのアフガン援助資金の要請はUNOCHAが
 
   「Consolidated Appeal for Assistance to Afghanistan」 という名の下で一括して行う。
  年1回、国連機関その他の援助機関に次年度の予算要求額を記入する用紙を配布し、
     それを回収してまとめる。
  そして、11の国連機関、ACBARその他いくつかのNGO、ICRC、EU/ ECHO、IOM、
  及びドナー国の代表を集めて会議が行われ、その場で援助活動の経過、ニーズ、戦略
  などが報告され、各国連機関の具体的な要求額を書いた資料などが配布される。
  97年度は1月にトルクメニスタンのアシュカバードで一度、7月にイスラマバードで一度
  会議が開かれた。
  11月初旬にもう一度開かれる予定である。

   97年度の総合要求額は約1億3千3百万ドル(US$133,009,192)であるが、
   97年7月1日現在で、まだ全体の約24.7%、約3千3百万ドル(US$32,904,819)しか
  集まっていない。約1億ドルほど不足している。
  但し、UNOCHAを通して要求するもの以外にも各機関の本部が配分する予算があると
  思われるがその実態は明らかではない。

   機関によって予算の確保状況には大きな違いがある。
  FAO、UNDP、UNOPS/CDAP、UNESCO、TWG PR(注7)
  の五つは予算確保ゼロである。
  一番確保できているのが、WFPの68%、次に、UNICEFの51%、UNOCHAの48%が続く。
 

(注1)

シトーの技術的なことは分からないが、
 衛星を使ってテキストファイルのみを送れる電報のようなもの。
 一部の国連機関がこの設備をもっており、もっていないところはそれを利用させてもらう。
(注2) ACBAR(Agency  Coordinating Body for Afghan Relief)のデータブック。
(注3)UNOCHAは「調整活動」以外に、「地雷除去活動」部門と
 「パキスタン・アフガニスタン間の国連機の運営」部門を含んでいる。
(注4)  むしろそれが多数派意見と思われる。
 但し、地雷除去部門の活動は尊重されており、
 UNOCHAを廃止してもそれだけを独立させるという考えが多数派と思われる。
 一般にどの国連機関も他の国連機関に厳しい傾向があるので、
 常にそれを割り引いて聞く必要がある。
(注5)  ACBARの他に同様の目的を持ったNGOにSWABAC、ANCB、ICCがあるが、
 ACBARに登録しているNGO数が一番多い。
(注6)  登録するオフィスは場所によって違う。
 例えば、カーブルではタリバン外務省のInternational  Economic and Financial Relations Department 、
 カンダハルではLiaison and Planing Office。
 登録費用として要求する金額も条件も場所によって異なり、また同じ場所でもよく変わる。
 タリバンの行政機構が末端まで統一されていないことが原因だろう。
(注7)  Team Working Group - A team of UN agencies and NGOs submitted a joint proposal for
 rural rehabilitation in Western Afghanistan.