5.飛んで火にいるコーヒスタン

 

 翌朝早々、我々はクソ熱いチラース村とおさらばし、伝説の氷河湖があるというカーガーンバレーへと向かう。ここからはカラコルムハイウェイではなく「地球の歩き方・パキスタン編」の地図上で「ジープ道路」と記載された道を走る。わざわざ「ジープ道路」と銘打っているのは、ジープ以外の車は通行「禁止」ということではなく、通行「不可能」だということを、その時はまだ知る由もない。

 

 段々畑と小さな農家。絵にかいたような田園風景だ。両側を民家の石垣に挟まれた、かろうじて車一台が通れるほどの細い坂道を、ジープはそろりそろりと通り抜ける。前方を猟銃をかついだ村人が山に向かって歩いている。今から猟に行くんだな。おっ、又も村人発見。座り込んでおしゃべりしているぞ。ジープが近づいても立ち上がろうともしない。横着な。うさんくさそうな顔でこっちを見ている。そりゃそうだろう。普段、地元民しか通らないような細い田舎道を、でかいジープが進入してきたんだからな。我々が悪うござんした。おや、彼らも猟師か。肩に猟銃をかついでいる。で、なんでこんなとこに座り込んでいるんだか。

 

 おおっと、こんどは村人の集団発見。ジープのエンジン音に気がつき、みんなが次々に振り返る。へえ、へえ、どなたさんも、すいませんね。ちょっと通してくださいよ。

 村人たちの姿が間近に迫って来たとき、我々は恐るべき事実に気がついてしまった。彼ら全員がかついでいるのは、猟銃なんかじゃない。あの、ソ連製のマシンガン、カラシニコフ自動小銃だあああああ!!ランボーみたいに弾の腹巻き巻いてる奴までいるじゃないか。それで、何しようっていうんだ。おいおい、銃ををもちかえてこちらに向けるんじゃないって。そんな恐ろしい顔でにらむなってば。我々は平和な国の旅人ですよ。侵略しに来たんじゃありませんよ。ちょっと通るだけですからね。そのままじっとしてて頂戴よ〜〜。

 

 ウオ〜、前方に村人の群だ!道ばたに座り込んでいた村人たちがいっせいに立ち上がって、ゾンビみたいにウジャラウジャラとジープに迫ってくるぞ。石を投げるなって、こらこらジープにぶら下がるんじゃない、丸太で通せんぼなんかやめろ、来るな〜、近寄るな〜、あっち行け〜。

 

 敵をけちらし、けちらし、やっとのことで村はずれに出る。ホッ。

「あのあたり、コーヒスタンという地方でね。あそこの部族はパキスタンの中でも最も好戦的で、よそ者とみたら何すっかわからない、とにかく危険な奴らなんですよ、へえ。」

 今頃になってドライバーがそんなことを言う。前もって教えてくれていたら、こっちだって木刀ぐらいは用意していた、わけないよな。