8月1日(土)

 

 カラーチー空港に降り立ち、パスポート・コントロールを抜ける前に白山の人だかりが

あることに、僕たちはもはや驚かない。彼らが手に掲げるボール紙の上の名前を一つずつ

見ていく。あった。僕たちの名前だ。その途端、身軽になる。白服に身を包んだ二人の男

たちが、僕たちの荷物の大半を抱え、パスポートを預かる。後は全て彼らがやってくれる

のだ。

 二十数分の後、カラーチー空港の国内線ロビーを見下ろす喫茶店でコーヒーを飲んでい

た。これでも時間が掛かったほどだ。本当なら、パスポートコントロールを難なく抜けら

れるはずが、ちょっと手間取った。原因は白服の選んだカウンターが悪かったことにある。

列の順番を無視してパスポートを差し出す白服を係員は執拗に無視し続けたのだ。何度か

トライした後、白服は諦めて別のカウンターに行った。むろん、それ以上のゴタゴタはな

かった。焼酎や日本酒を詰め込んだバックパックはノーチェックで税関を通ったし、国内

線のロビーに入る際にも、足止めを食ったりすることはなかった。

 だが、白服を頼んでおいた以上、それは当然のことだ。500ルピ(1500円)を払

うだけで、何でも密輸できるのが、パキスタンという国なのだ。僕は、煙草の煙を吐きな

がら、そう思った。ちなみに、カラーチー空港は完全禁煙である。喫茶店の壁には、白抜

きでNO SMOKINGと書いた赤い大きな看板が数メートルおきに張ってある。けれども、守る

必要はない。僕は平気で床に煙草の灰を落として、コーヒーを啜っていた。階下に見える

ロビーでは、警備員がやはり煙草を吸っている。しばらくすると、喫茶店のボーイがやっ

て来て灰皿を置いて行く。パキスタンでは今NO SMOKINGという看板が大流行している。そ

れだけのことだ。