8月6日

 

 午前中にクエッタを発って、午後にはイスラマバードに到着。二つの都市を比べ

てみると、長い歴史的経緯を経て成立した都市と、ある日突然地表に現れた人工都

市の違いには目を瞠るものがある。イスラマバードは完全な人工都市だ。曲がりく

ねった道とか、人一人が通るのもやっと、というような路地はない。道路は常に直

線か、正確に円の一部をなすようなカーブで、自然発生的にできた道は存在しない

。とはいえ、それは飛行機の窓から街を眺めた場合にだけ当てはまる事実だ。実際

、住む人間に大差はないから、都市計画を立てたギリシャ人が思いも付かなかった

ような使い方を、現地人はしている。そもそも、超近代人工都市という夢を実現す

るべく路面図を引いた、ギリシャ人も、その近代的な道路の上を、猿回しやクマ使

いが歩くとは、想像もできなかったに違いない。ましてや、ロータリーを造ったら

その中心の小さな草地で現地人が寝転がり、空き地を作ったら、そこに水牛がたむ

ろすることになろうとは!

 それでもやはり、イスラマバードは、まだしも、なじみの世界だ。建物は泥壁で

はなく、モルタル塗りだし、たいていの道路は地道ではなく舗装道だ。安心感と脱

力感が押し寄せる。僕もCちゃんも、イスラマバードではひたすら寝まくった。ク

エッタで怒濤のように押し寄せてきた、恐るべき量の新しい情報を処理するために

は、睡眠が必要だった。布団にくるまり身を丸めて眠るのが心地良かった。半睡状

態で、ソファでだらしなく寝そべるのが、幸福の極致のように思えた。時間がじわ

りじわりと速度を上げ始める。僕たちは知らなかったのだ、いや、知りたくなかっ

たのかも知れない。これから先、クエッタを上回る情報が山津波のようにのしかか

ってくることを。