その(一)

 

「え、イスラマバード?あのヨルダン川のあるとこですか?」

「そら、イスラエルやろ。最初のイスしか合うて無いやないか」

「あ、あの昔流行った曲、ほれ、なんやったかな・・・・とんで・・ええっと」

「イスタンブールやろ」

「あの寒いところ?北極圏に近い」

「ひょっとしてアイスランドとでも言いたいんかい」

「あぁ、アイスランドやったか」

「なんかどんどん遠なる一方やな。パキスタンや、パキスタン」

「えっ、パキスタンってどこでしたっけ」

出発前日の仕事場で。

 

イスラマバードはおろかパキスタンもほとんど知られてないんやな。

とは言う俺も出発前日に『旅の会話集/ヒンディー語・ネパール語編』を買うて

イスラマバードに住む友人に

「そこは何語をしゃべってんねや?」

と質問したくらいやから、他人の事を言えた身分やない。

答えはウルドゥ語やった。

 

金曜日に仕事を終えてから関空特急で空港へ向かう。

阪和線を走ってる時は会社帰りの酔っぱらいのオッサンで満杯やった電車も

阪和線から分岐してからはもうガラガラ。関空で降りたんはほんの数人や。

それにしても泉州のオッサンの声ってなんであないにどでかいんや。

 

改札口でポケットの中をまさぐるがなんぼ探しても切符が無い。

改札の前で探しまくってると、

「さっそく、切符無くすか?先が思いやられるわ」

と改札の外から泉州のオッサンに負けんくらいの大きな声がする。

見ると、漫才コンビのピカ・オグやないかい。今回の旅行の同行者や。

彼らは業界では永いがなんぼやっても売れないという漫才師で、

金は無いがヒマだけはたっぷりあるというのが評判や。

 

夜の11時を過ぎた関空は人気も無く寒々としている。

「どこが24時間空港やねん。ビール飲むとこも無いやないか」

「まぁ、まぁあんた落ち着きなはれ」

「責任者でてこ〜い」

また、漫才のネタ始めよったで。

 

 

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