その(二)の二
大きなソファーに座り、靴下も脱ぐ。
隣のソファーにはオジサンが座っているのだが、顔はソファーに埋まって見えない。
大きく息を吸い込んだ時に腹だけが見え隠れする。
オジサンは熟睡状態で大いびきをかいている。
そのあまりの不規則さに彼女は笑いをこらえるのに必死だった。
彼女は私の足を洗面器に入れて洗ってくれている。
洗った後、その足をタオルで丁寧に拭き、足の親指から順に丁寧に揉みほぐす。
彼女はどう見てもオバサンとなのだが、そのにっこりした顔はとてもチャーミングで可愛い。
かわいいオバサンなのでカバちゃんと心の中で命名した。
「グゥワーーーッゴーッ、グルグルヒーッ フーッ」と、また不規則ないびき。
思わず私が笑い出してしまった。
私の笑いにつられて、カバちゃんもとうとう我慢仕切れなくなり、とうとう笑いだした。
オジサンの足を揉んでいた女性もだいぶ前から笑いをこらえていたらしく、
我々の笑いで、もう堪えきれなくなったのか、クスクス笑いが大笑いに変わる。
しばらく3人で大笑いをした。
ここはバンコック市内の足坪マッサージの店だ。
カバちゃんは一つ一つの指を丁寧に丁寧に揉んでいく。
私は自分のとっている姿勢にものすごく違和感があった。
うつぶせになるなどという無防備状態を相手にさらけ出すならまだしも
ソファーにでーんとふんぞり返った姿勢なのだ。
片やカバちゃんは私の足下でふんぞり返って、でーんと投げ出した私の足をマッサージしてくれている。
この姿勢は、王侯貴族が自分の奴隷に足を揉ませている様なイメージを連想させる。
もっともソファーを倒し、もっとふんぞり返る様に求めたのはカバちゃんの方だったが。
私はいつの間にこんなにえらくなってしまったのだ。
俺はこんなに偉くな〜〜い!!
カバちゃんを足下にひざまずかせるほど、俺はえらい人間じゃないんだ。
もちろん、店がこれを商いとしている事は理解出来るのだが。
私は俺と私の区別がつかなくなるほど動揺していた。
その時、カバちゃんが胸をはだけるやいなや、私の上にのしかかり・・・・
んな事があるわけないやろ〜〜。
次の瞬間には私は深〜い深〜い眠りに落ちていたのだ。
カバちゃんに足をポンッポンッと叩かれてようやく深い眠りから覚める。
Are you sleepy ?
Yes.
カバちゃんがニコッと笑う。
「ユー、カワイイ」
カワイイといったのはもちろんお愛想なのだろうが、
カバちゃんの唯一知っている日本語が「カワイイ」だとすると、
なんてカバちゃんに似合っているんだろう。
そうして愛しのカバちゃんにさよならをした。
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