侵入者

                              1998.07.20

おとついな、友達の家に○○と行って晩飯食うて1時くらいに戻ってきたんや。ほいで、僕は眠たいからすぐに2階に上がった、と思いきや、台所に行った○○が「よし〜!」という金切り声を上げるやないかえ。

すわっ!とうとう腐った天井が落ちたか、バズーカ砲の襲撃を受けたか、食い散らかした残りもんにムカデの大群が来たか、といろんなこと考えながら、一気に二階から駆け下りて台所に突入!

しよかと思たけど、階段の大理石で滑っていっぺん痛い目におうてるし、撤退してくる○○と正面衝突するかもしれんし、間違うて地雷踏んだらあかんし、とまたいろんなこと考えてゆ〜くっり階段を降りて、こそ〜っと台所を覗いたんや。

あれま、そこにはガスレンジを前に呆然と立ち尽くす○○がおるやないかえ。とっさに、「はよ、逃げろ!何してんねん!」と一応言ってみよかと思たけど、状況が状況であり、これ以上、異常事態を混乱させるのもまずいと判断し、「何見てんの?」と言ってみた。

しかし、すでに○○の口から出てくる言葉は精気を失ったような「見てみ、見てみ」というつぶやきだけであった。おのれ、もはや黒鍬の一味に血を吸い取られたか。何くそ、こんにゃろ、こんにゃろ、と興奮する頭を抑えて○○の視線の先にあるガスレンジを見ると、お〜〜〜っ、なんとそこにはうずたかく積まれた藁の固まりがあるではないか。いかん、これは侵入者のいた形跡だ、と場面は一気に緊張した。たぶん、侵入者は冷蔵庫の食い物をあさり、一服したあとでお茶でも飲もうとしたが、ガスレンジの使い方が分からず、急遽、藁を集めてガスレンジの上で焚き火をしてお茶を沸そうとしたにちがいない。そうだ、そうに決まってるのだ。こういう奴の手口はだいたいいつも同じだ。侵入者は普通ガスレンジの上に藁を置いて火をおこし、お茶を沸かすと相場が決まってるらしい。

なんじゃ、こんなもん残していきやがって、この、この、この、藁のバカ、バカ、バカと呻きながら、藁をもつかむ僕の興奮状態を覚ったか、○○は「ちゃう、ちゃう、そっち、そっち」というではないか。何!おのれ、性懲りもなく、置き忘れた藁を取りに舞い戻ってきやがったか、と一瞬これはもはや藁投げ必殺目つぶし攻撃に出るしかないと藁をがしっと一掴みにぎり、そっちと呼ばれるガスレンジ台、北北西15度の方向を見ると、黒い毛皮のようなものがモゴモゴ動いてるではないか。てめえ、こんなとこに隠れていやがったか、一気に征伐してやるっ!と息巻いたとたん、敵もさるもの、今度は動きを止めて同情をかう作戦に出てきたではないか。う〜む。どうしたものか、しばし、今後の身の振り方を考えて、検討してみることにした。状況はこちらの有利な方向に展開している。もう王手をとったようなもんだ、といって油断はできない、もう少し敵の状況を調査してみてから、核実験を決行するかどうか決めてもよい、という結論に達し、ガスレンジ台の片隅で隠れたふりをしている黒い毛皮を触ってみることにした。

指でちょっとつつく。ふにゅうっとなる。もうちょっとつつく。もっとふにゅうっとなる。もうちょっときつめにつつく。

「ピーッ」。

なんじゃ、これ?ええい、しゃらくせえ奴らだ、もっとつついたれ。

「ピー、ピー」。

ピーピー言うな、やかましいわえ。

「ピー、ピー」。うるさい!つつく。

「ピー、ピー」。うるさい!つつく。

「ピー、ピー」。うるさい!つつく。

「ピー、ピー」。うるさい!つつく。

「ピー、ピー」。うるさい!つつく。

「ピー、ピー」。うるさい!つつく。

「ピー、ピー」。うるさい!つつく。

「ピー、ピー」。うるさい!つつく。

「ピー、ピー」。うるさい!つつく。

「ピー、ピー」・・・・・

この、いつ果てるともしれない激戦は今も延々継続中である。もはや全生涯をかけた二種類の生の衝突の場と化している。

それは三羽の雛であった。換気扇に作っていた巣がパキスタンにありがちな手抜き工事のおかげで、巣まるごとガスレンジの上に落下し、あわれ乳飲み子の雛はガスレンジの片隅で這い蹲っていたのであった。

そのまま置いておいたら、いずれ焼き鳥になる運命は目に見えているので、二階のバルコニーに巣を作ってやった。朝、起きると親鳥がせっせと餌を運んできていた。

「やあ、昨日はどうも」と挨拶をしにバルコニーに出ると、なんと恩知らずな親鳥は鳴きわめき、雛は逃げ回り、あげくのはてに親鳥は低空飛行を繰り返し、果敢にアタックしてくるではないか。完全にこっちを認識できるらしく、外から車で帰ってきてドアをあけたらすぐに、親鳥は攻撃にやってくるようになった。

翌日の晩、台所でまたガサゴサ音がした。なんとガスレンジの下にもう一羽隠れていたのである。

というわけで、今、我が家のバルコニーには4羽の雛が巣くっており、2羽の親鳥が毎日餌を運んで来ている。いつになったら、この雛達が飛べるようになるのかしらんけど、それまで親鳥はめちゃくちゃ忙しそうである。なんせ、カラスとかでかい鳥が雛をねらってしょっちゅうバルコニーの上を旋回しているから、その度に親鳥はギャーギャー鳴きわめき、威嚇飛行を続け、なおかつ暇を見つけて餌取りにでかけないといけない。何羽、無事に巣立つのか見物である。

なんちゅう鳥か、それは分からん。鳩よりちょっと小さいくらいの大きさで、鳩よりましな容貌をしてる。