ハビビの鉛筆

                              1998.07.23

ハビビは、僕がフィールドへ行くと通訳をしながら、プロジェクトサイトの案内をしてくれる人だった。僕のやってることは結局単なるペーパーワークだ。彼らが現地に住み、プロジェクトの進行を逐一管理している。プロジェクトサイトは破壊され放棄された村にある。その村にはロシア相手に戦う本当の聖戦士がいた頃の彼らの秘密基地・洞窟がいたる所にある。洞窟には残された武器や弾丸が無造作に散らばっている。そこに到着するだけで体力を使い果たす、そんな行路を通ってその村に辿り着く。道と呼べるものが途中でなくなる。川底を通って行く。野生のマーベリーを見つけると彼は必ず止まり、それを食えと勧めてくれた。甘いというのが気持ちいいもんだというのをそのマーベリーから学んだ。夜は木の下で星を見ながら一緒に寝た。彼はナンガハル大学という現地の中心的大学のなんと副学長であったけれど、国家消滅寸前という状態にいたり、それでも国外へ逃げず(ほとんどのエリートは欧米へ行ってしまった)国連に助手として雇われ、外国の若造の下で働いていた。もちろん家は破壊され住むところはないので、家族でナンガハル大学の校内に住んでいた。校門の前に立っている彼を早朝拾って、ジャララバードから破壊され放棄された村へ向かう。それが僕らのルーティーンだった。6月末、フィールドトリップからの帰り、カブール川沿いにある魚屋で魚を買ってその場でフライにしてもらって彼と一緒に食べた。感動してはしゃいでしまった。今度来た時はうちに招待するよ、それがハビビの最後の言葉だったような気がする。

 

明日から「援助国の視察」という一大イベントが始まる予定だった。援助国とは、この地域の復興開発にお金を出している日本のことだ。8月にある、プロジェクトのレビュー会議をする前に是非一回見ておくべきだと僕は主張した。現地日本大使館も本省も理解してくれたようだった。大使館の若い人が行くことになった。現地のすべての国連事務所に電報を打った。受け入れ体制にてんてこまいのはずだ。どっかの政府の人が来るとなると、それがどんなランクの人であれ大騒ぎになるのだ。飛行機、車、宿、などの手配も終わった。

 

ハビビが殺されたニュースが入った。僕は日本大使館に電話した。ハビビが日本がお金を出しているプロジェクトにどのような働きをしていたかを説明した。翌日、日本大使館から弔電を打つという知らせを受けた。僕は自分の用意した弔電を出さないことにした。そんなふうに終われないという気分か。

「視察の方は大丈夫ですね」

「大丈夫だと思います」

 

秋野氏が射殺されたというニュースが入った。ダメだという直感が走った。大使館に電話する。本省が大使館職員のアフガン入りをどうも躊躇しているという話。ダメだ。ハビビの死が今になってクローズアップされてしまっている。秋野氏の射殺事件はアフガニスタンになんの関係もないはずだが、本省の雰囲気に影響を与えているのだろう。とにかく、ハビビが殺された背景と思われることを全部列挙して、それらがことごとくアフガン入りする日本人の安全に関係ないことを伝えた。午後遅く、大使館から連絡があった。「中止します。」この若い人は落胆していた。申し訳ないとしきりに謝る。

「日本のせいだから、しょうがないよ」

「ロバさんは行きますか」

「いつアフガン入りできるか、次の計画を考えて下さい。それから、日本政府の寄付する鉛筆とボールペン、今から事務所に届けてもらえますか。僕が明日持っていきます。次回は一緒に行きましょう」

 

1時間後、段ボール箱が二つ届いた。小さな日の丸が鉛筆についていた。みんな喜ぶだろうな。村では子供達は木陰の地面に座って、少しばかり学のある大人達が先生になって学校めいたものを始めている。黒板もチョークも教科書もノートも鉛筆もない。そんなものは国連のどこかの倉庫にありあまっているはずだ。とりあえず、いろんなところに連絡したけど、僕は最初からまったく期待していなかった。究極のビューロクラシーには鉛筆一本だって通過できない。日本大使館なら余ってる文房具があると聞いたことがあった。僕はそれが欲しいと連絡したのだった。「ああ、いいですよ」。それをもらった。木陰の学校を一生懸命継続させようとしていたのは、ハビビだった。ハビビの手柄だ。明日アフガンの子供達にあったら、ハビビが日本から獲得した鉛筆だとちゃんと言おうと思う。

 

(7)Two local UN workers killed in Afghanistan

 

Mon 20 Jul 98 - 16:42 GMT

 

GENEVA, July 20 (AFP) - Two Afghans working for UN aid agencies have been

killed in Afghanistan after being kidnapped in the eastern Afghan city

of Jalalabad, the UNHCR said Monday.

 

Mohammed Nazir Habibi, 49, worked for the UN High Commissioner for Refugees,

and Mohammed Hashim Bahsaryar, 55, for the World Food Progamme (WFP). Both

were found dead this weekend after having been abducted on July 13.

 

"I express our outrage," said UN High Commissioner for Refugees Sadako

Ogata, while the executive director of the WFP, Catherine Bertini, condemned

what she called "this evil act."

 

Bertini added: "These brutal killings are a cruel reminder that depite

appeals for greater respect for humanitarian workers, some people or groups

continue to kill with impunity."

 

News of the killings came as a number of non-governmental aid agencies left

the Afghan capital Kabul Monday after raids by Taliban militia on their

offices and the arrest of Afghan staff.

 

The raids followed a Taliban-decreed deadline for aid workers to regroup in

a single delapidated compound.

 

UNHCR spokesman Fernando del Mundo said he did not know who was behind the

murders of the two Afghan staff members and that an inquiry was under way.

The killings took place in a zone controlled by the fundamentalist Islamic

Taliban militia.

 

The pair were kidnapped from Jalalabad University, where they had taught,

while waiting for a UN vehicle to take them to work.

 

The UNHCR and the WFP contacted the local Taliban governor to try to find

them. The body of Bahsaryar was found on Saturday on the outskirts of

Jalalabad, and that of Habibi on Sunday near Torkham, not far from the

Pakistani border.

 

At least 10 aid agencies were shut down on Monday's raids in Kabul, with the

European Community Humanitarian Office (ECHO) also being raided by Taliban

officials.

 

The European Commission announced earlier Monday that it had suspended

humanitarian aid to Kabul in protest at the harassment of aid organisations

by the Taliban.

 

On Saturday ECHO pulled out their expatriate staff amid security fears and

after the purist Moslem Taliban accused the European commissioner for

humanitarian affairs, Emma Bonino, of using aid to propagate Christianity.