半径1メートルの空間

 

今年の正月、茨木神社へ行った。別に神社へ行く事が目的やったわけやない。

ちょこっと散歩するつもりで、茨木神社の露天でも覗いたろか、と足を踏み入れたんが失敗やった。

あれよあれよと言う間に人波の渦に巻き込まれてもうて、気がついた時にはもう満員電車のラッシュの中に居った。

前にも後ろにも進まれへん。人の流れは一応神社の境内に向こうとるんやが、ほとんど前へ動かん。途中でその理由はわかった。

参道の途中で横からも参道へ人が流れる道が何本かあったんや。合流してきとったわけや。ほんの何十メートルかの距離やのに1時間以上立ち往生や。

こんなんしとったら天皇杯のサッカー見られへん様になるやんけ、と思てたら案の定帰った時には終わってもうとったわ。

しかも参道は両側から露天の店が軒を並べ、双方から2メートルずつくらい幅を狭くしとる。

露天をしばらく眺めとったが、買うてる人がほとんどおらん。そらこんなラッシュ状態ではたこ焼きも食べられへんわな。

彼らは絶好の場所を確保したつもりやろうが、人の流れが逆では商売にならんで。こんなとこに店拡げて、通り道を狭くするくらいやったら、本堂の裏手の寂れた場所、お参りの後、人が流れて行く場所や。そこでたこ焼き売った方がよっぽど賢いで。

とかなんとか考えてる時、その超ラッシュ状態の人波を奇策をもって横断しようと試みる人物が居った。

「はーい、みんなちょっと通してや。きれいなおべべにケチャップついてまうで〜」と叫びながら突進して来るオバハンやった。

高々と掲げたその両手にはフランクフルトソーセージが3本づつ。黄色いマスタードと真っ赤なケチャップが今にも垂れてきそうなくらいにたっぷりとぬりたくったあった。

あっと言う間に人波は割れ、前へ50cm、後ろへ50cm、1メートルの幅の通り道を作ってまいよった。

まるでモーゼが海の中に道を切り開いたみたいや、というのは大袈裟で、俺の頭の中をよぎっていったんは、だいぶ前に満員電車の中で起こった光景やった。

 

それは朝のラッシュ時間で阪急電車の中や。電車はすし詰め状態で、扉を閉めるのに駅員とアルバイトが2〜3人ががりで押しこまなあかんほどやった。その中で座ってるオッサンの一人が「ゲボッ」と気色の悪いゲップをしたんがその前兆やった。

次の瞬間に、オッサン、ゲボーッとあげてまいよった。もう電車の中はパニックや。両隣りに座ってた人も立ち上がり、超ラッシュ状態のはずやのに、そのオッサンから半径1メートルに空間が生まれた。

オッサン、いたたまれずになってもうて、次の駅に着くや否や猛烈に出口にダッシュして電車から飛び出して行きよった。

残されたんは、オッサンの吐いたゲロや。

そのゲロから半径1メートルの空間は終点の梅田まで見事に維持されたのであった。