1999年の初夢(続編その1)

 

そのころ仕事好きの梅腹刑事は照夫の家へ向かっていた。

ピンポーン。「大縞さんはご在宅ですか」

「はい、私が大縞ですが、今紅白歌合戦を見てる最中で忙しいんです」

 

「そ〜れは、そ〜れは、お楽みィ〜〜のところん、ろん、ろん。」

「誰ですか、あんた?」

「西、西、ニ!シ!ノ!ミ!ヤ!署のウメエエエエ〜ハラ〜と申しますうう!」

「お巡りさんですか。どうでもええけど、おたく、メロディつけてしゃべんのやめたらどうです?」

「あっ、これは失礼。署のカラオケ大会が近いもんで、つい。」

「ほんで、どういう用件ですか?」

「紅白歌合戦を見てはるとこやと。」

「そうですよ。はよしてくれんと、次の白組はサブちゃんなんや。」

「大縞さんは、北島三郎のファンですか?私はやっぱりアイ・ジョージですな。」

「誰やそれ。まあ、そんな話はどうでもええわ。」

「そうでした、そうでした。奥様もご一緒に紅白観戦ですかね。」

「いや、嫁はんは・・・」

(そういえば。ヒゲオヤジから嫁はんのこと聞いてなかったな。どこ行っとんや。)

「嫁はんは・・・その、あれや。」

「あっ、正月用の買い物か何かに?」

「そうそう、それ、それ。」

「朝から?」

「そう。」

「こんな時間まで?」

「どっかで道草食っとるんちゃいますか。」

「ほう、大晦日の、こんな時間にねえ。」

「何ですか?人の嫁はんがどこで何しようと勝手でしょう。大晦日の晩、買い物帰りに道草食ったら懲役ですか?」

「いやいや、とんでもない。そうですか、奥様はご不在ですか。」

「嫁はんに何か用ですか?帰って来たら伝えときますけど。」

「実はですね・・・・」

「あっ、サブちゃん登場や!」

土肥はインターホンの受話器をホッポリだして、テレビの前に駆け寄った。

「あの、もしもし、もしもし。」

梅腹刑事は仕方なくインターンごしに北島三郎の「与作」を聞くことにした。北島三郎の歌が終わり、和田アキコの声が聞こえてきた、大縞がもどってこないので、梅腹刑事はもう一度インターホンをならしてみた。

「はい。」

「あ、どうも。さきほどの梅腹ですが。」

「なんや、まだおったんですか。」

「ええ、大事なことをまだお伝えしてませんので。」

「大事なこと?」

「はい。実は、今日の午後、西宮埠頭で、女性の死体が発見されましてね。」

「ほお?殺人事件ですか?」

「いや、まだそれは何とも。で、 その女性の身元を今調査しているところなんですが、なにしろ女性は何も携帯してませんでしたから、これがなかなか・・・・」

「せやけど、日本の警察は優秀やから、すぐ調べだしよるんちゃいますか。」

「そうなんですよ。といっても、これは偶然なんですけどね。なんと、担当の西尾蚊刑事の顔見知りやったんです。」

「へええ、なんか『部長刑事』みたいやないですか。ゾクゾクしてきたな。」

「で、その刑事の話によると、その女性の身元というのがですね・・・・」

「じれったいなあ。まさかそれがうちの嫁はんや言うんちゃうでしょうね?」

「・・・申し上げにくいんですが、実はそうなんです。」

「そ、そ、そんな、アホな。」

「それで、ご遺体の確認をして頂かないといけないんですが、今から署まで御同行願えますか?」

(えらいことになってきたがな。こら、しゃれにならんぞ。

ヒゲオヤジには連絡とられへんし、ええい、困ったな、どないしょ。)