ざりがに

 
 
今年の夏のこっちゃ。大阪の庄内という所へ買い物行って、魚屋覗いとったんや。
ほな、ザリガニ売っとんねん。これまで、沢蟹売ってんの見た事あるけど、
ザリガニ売ってんの始めてやったから、
「おっちゃん、これどないすんねん」って聞いたら、
「そら、天ぷらにすんのが一番やろ。カリカリしてうまいで」
と言われて二匹だけ買うたんやけど、どうしても天ぷらにする気にならんかった。
別に俺、自然保護団体ちゃうし、悪食が嫌いっちゅう訳や無いで。
なんか健気に生きとるザリガニ見たら最後まで生かしたろかなって思たんや。
そやから水槽買うてきて、
一応空気プクプク出しよるナントカっちゅう装置も入れて飼うたんや。

ほんでから、あれは9月くらいやったかな。メスが卵を孕みよったんや。
最初はなんかシッポの手前にへんなできもんでも出来たんちゃうかと思たで。
赤いつぶつぶが固まりになっとんねん。
調べたらそれが卵やってわかってんけどな。
見た人みんな気色悪るがっとったわ。これが孵ったらどないなんねん、って。
俺は大喜びしたで。
早速、生まれた後のザリガニのチビ共の住まいになる様にストローを短く切って
束ねて水槽の下の石に刺したった。それだけや無いで。
生まれて来たら、母親であるメスは我が子を食うたりせんやろうけど、
オスは食うてまうやろ、
と思てオスとメスを水槽の真ん中で別々に仕切って
簀の子でオスに対しての防御線を張ったったんや。
次の日、びっくりしたで。オス居れへんねん。
水槽の下にようさん置いた石もほじくってみたけど
そんなとこに居るわけ無いわな。
どう考えても、簀の子の壁をよじ登って、外の世界へ旅立ちよったんや。
それはそれで偉い。オス、お前はよう頑張った。俺が誉めたる。

でもな、旅立ったんはええんやけどな、俺んとこ小さいマンションやで。
ちょっと逃げ出したらすぐに土がある様な一戸建ての家とちゃうんや。
密閉されたコンクリートの壁の中に住んでるんや。
いったいどこへ逃げんねん。
そら下駄箱の下から押入の隅々まで隈無く探したんや。
でもどこにも居れへん。
どっこも隠れ場所無いで。まるで神隠しやで。
まぁそのうちカラッカラに干からびてカスカスの死体になって発見されるやろけど。

その後、ずっとザリガニの事忘れとった。
こないだ帰って来て、ザリガニどこや、と思たら寒い中やのに
水槽そのままベランダに出とった。
メス、卵抱えたまま腐ってまうんちゃうか。
自分で石掘って石の下に隠れる様に、半冬眠状態になっとった。
今やったらまだ間に合うかも分かれへん、と思て部屋の中に入れたった。
それでも卵はもう赤くは無うて、薄茶色に近かったから
やっぱり腐ってもうたんかなと諦めとったんや。

11月の晩いつもの様にザリガニ観察しとったら、
なんと3〜4ミリくらいのチビが石の上に2匹ほど居るやんかいな。
どないなったんや、と観察続けとったら、2匹どころかあっちこっちに居る居る。
メスを見ると尻尾を拡げて、卵の固まり、いやもう卵ちゃうかった。
チビどもの固まりを腹に抱えてゆっさゆっさと腹のとこ拡げたりすぼめたりしながら、
早よ降りろっ、早よ降りろっ、ちゅう感じで揺さぶってんねん。
メスがそれやるたんびに一匹、二匹と腹から、ふわーっと降りて行きよる。

ものすごい神秘的なもん見た気したで。
天ぷらにしてもうてたら、こんなん見られへんとこやった。

帰ったんが午前2時やってんけど、
とうとう朝の6時まで飽きもせんと見入ってもうたわ。
おかげで次の日は徹夜明けで仕事せなあかん様、なってもうた。
今や水槽の中、半透明のザリガニのチビでいっぱいや。
そいつら大きなったらどないしよう。 

   ・・・・やっぱり天ぷらか?