今年も歯医者
1999.08.21
ハンバーガー屋のポテトを食べとった時、ガリッと音がした。
なんや、石でも入っとんかいな。と思いつつも口の中に石は見あたらず、そのまま食べきった。
その時はまだ気がついて無かったんやが、奥歯の様子がどうもおかしい。
どうも欠けてるようや。
あのポテトの時やな。
くそう。たかだかポテトのために貴重な歯を欠けさせてもうた。
ところが、それだけやなかった。晩飯食うてたら、その欠けていると思てた歯には大きな穴が空いている事がわかった。詰めもんが取れてもうたんや。
去年に引き続き、今年もまた歯医者行かなあかんのかいな。
たまらんなぁ。
今の仕事先で一番近いのは、あのクリニックやな。
そやけど去年のあの歯医者にだけは当たりたないな。
と考えつつもそのクリニックへ行く事にした。
受付で、「以前ここで治療なさった事は?」
と聞かれたので「去年、一度だけ」とこたえる。
しばらく待たされた後、名前を呼ばれる。
「去年はXX先生ですね。今、他の患者さんを診てますから、ちょっとだけ時間かかりますよ」
あかん、このままやったらまたあの医者に当ってまう。
「去年と同じ先生である必要無いでしょ。別の先生でええんです」
「同じ先生に見ていただくのがここのシステムなんです」
「別に去年の治療の延長や無いんですから、一から来た患者やと思て下さい。診察券もとうの昔に無くなしてますし、初診やと思て下さい」
「他の先生も時間がかかるのは一緒ですから・・・」
あかん、あんまり食い下ってんのが中に聞こえて尚かつ同じ医者やったらどんな治療されてまうか。歯医者は怒らせたら恐い。
しかし、後から考えるとなんとしてでもそこで食い下がるべきやった。
もう一押し食い下がろうか、と思た時に診察室の中から名前を呼ばれる。
何が時間がかかるやねんな。
そうして交渉するいとまも無く、去年の医者と再会するはめになった。
歯が欠けた経緯を話し、口を開けると、
「ああ、これは虫歯ですな。詰めた中が虫歯でボロボロになっていたから簡単にポテトなんかで取れたんですよ。これはひどい。かなり掘らないといけませんよ」
また掘りよんのないな。もう堪忍してくれよ。
と思う間も無くウィーンと掘削工事が始まった。
「はい、一回口をゆすいで」
とやっと一呼吸。
珍しい。去年、一回も一呼吸入れよらんかったのに。
一呼吸も入れさすと患者に話すチャンスを与える事になる。患者に一言の苦情を言わす機会を一回も与えずに掘り続けるのが歯医者の作戦やと去年認識した。
歯医者はこちらが口をゆすいでいる間にカルテを手にとって見とった。
じっと見ているうちにマスクで半分以上隠れた顔の表情が「フムッ」と変わったのを俺は見逃さんかった。
彼は何かを思い出したんや。
それと同時に俺も思い出した。
そうや。今回、彼がひどい状態と言ったこの歯はまぎれも無く去年この歯医者が削りまくった歯やないかい。
そうやったんや。最初に気ぃつくべきやった。
おそらくこの歯医者は何も無かったのごとくに尚も掘り続けるやろう。
ところが、彼の口から出て来た言葉は
「いやぁ、最初はもぞすごい虫歯だと思ったけど、さほどでも無かったですよ。削るのはもうこれでおしまい。じゃぁ型を取りますから」。
そうして助手にバトンタッチし、別の間仕切りの方へ去って行った。
おいおい、ほんまにええんかい。と思いつつも予想外に早く片づきそうな進行状態を喜んでいた。
その日は簡単に仮り詰めをしておしまい。
なんかすぐ取れてまいそうやから、それを言うと
「別に取れてもいいんですよ。仮りの詰めものですから」
それがお盆の週の一週間前の事やった。
次の治療日は歯医者がお盆休みに入る事もあって2週間先になる、と受付で言われる。
こんなやわな詰めもんで2週間も大丈夫かいな、と思いつつも次の一週間はこちらも今やってるシステムの最終テストの週。「総合ローテーションテスト」と呼んでいるんやが、その一週間は昼飯を食べる時間もとれるかどうかわからんと言える状況なんはわかっとるし、その間に歯医者へ行ける時間があるとはとても思えないので、先に延びるぶんにはこちらとしても都合が良かった。
ところが、一週間を経過した頃からなんやら飲み食いするたんびにその歯が沁みてきよる。
二週間目の治療日にはだいぶその沁みる状態がひどくなった頃やった。
<2回目>
歯医者が来るまでのセットアップをする助手らしき人にその沁みる状態を言うと、
「そうですね。ちょっと歯ぐきも赤くなってますね。先生に診てもらいましょう」
そして現れた歯医者に助手がその状態を耳打ちするのだが、歯医者は「大丈夫や。大丈夫」とほとんど取り合わんかった。
「さぁ、今日は型取りをしたものを入れますから。それでおしまいですよ」
ほんまかいな。今回は歯磨き講習を攻めてけえへんねんな。自分の治療した歯が一年しか持たんかったんを気にしとんのかいな。
再度、今度は歯医者にその沁みる状態を言うと、
「ああ、仮り詰めがだいぶ取れかかってますね。だからですよ。ああ、食べ物のカスがこんなに。これじゃ沁みてもおかしくないですな。でも大丈夫。これからちゃんと埋めますからこんなすき間は出来ません」
と噛み合わせの調整を2〜3回繰り返した後、セメントでを塗った詰め物を入れて、
「はい、これでおしまい」
最後の口ゆすぎをしていると、まだまだ結構沁みるではないか。今日ここへ来る前の状態と変わってない。
去ろうとする歯医者に、
「まだ沁みるんですけど」と言うと、
「そりゃ、あれだけ深く掘れば少しは沁みましすよ。すぐ直りますから大丈夫ですよ」
当初の助手とのやり取りを聞いていた俺は
「なんか炎症を起こしてるとか言う事はないですか。歯肉の炎症、もしくはあんまり深く掘りすぎて詰め物の先頭が神経まで達して、神経が炎症を起こすとか」
「神経が炎症を起こしたら、沁みるどころの話じゃないですよ。歯肉も炎症なんか起こしてませんし、しばらくしたらその沁みるのも治ります。そんなにご心配なら3週間後にもう一度来て下さい。もし、沁みるのが直ってなければ神経を抜いてあげますよ」
と自信たっぷりである。
俺もこれでおしまいだと思っていた。この沁みるのもすぐに治るのだろう。
ところがそれでおしまいではなかった。
その日の晩、遅い晩飯を食べているとその歯に少し、ものが当たっただけで激痛が走る。
メシは反対側の歯だけで簡単にすまし、冷たい麦茶を飲む。するとまた激痛が。
冷たいから痛いんや、と熱い茶を飲むがまた激痛が。
今日、一日の辛抱やろう。明日も忙しいこっちゃしさっさと寝よう、と眠ろうとするが歯が痛んで眠れない。鎮痛剤を飲んで、その日はなんとか乗り切った。
その次の日。
痛みはさらにひどくなった。仕事中はその事を忘れている時が多いが、時折、激痛がやって来る。
人と話をしている時も、歯の方に神経が集中してしまって仕事の話に集中できない。
帰ってから風呂に入っている時、最大の激痛がやって来た。
これはおかしい。なんぼなんでもこんな痛い状態は無いやろ。
とうとう、その日はメシらしいメシも食わず、晩は晩でアイスノンを頬にあてて、鎮痛剤を飲むが痛みで眠れず。気が付いた時にはもう朝になっていた。
診察券を見ると、診察時間は朝の9時からとなっている。
ようし、9時までの辛抱や。
時計の針が9時をさすや否やクリニックに電話をかけ、激痛が走る旨を伝える。
「担当医の名前はわかりますでしょうか?」
「担当はXXという名前になっとるけど、このXXという人だけはお断りやで。絶対に違う人にしてや。おたくのシステムでそれがでけんのやったら、別のクリニックへ行きます」
「とりあえず、担当医を替えるかどうかはこの受付では判断できませんので、来て頂いた時に相談させて頂きます」
「ほんなら、今から5分後に行きます」
とうとう言うてもうたで。こんだけ言うて、もし同じ医者やったらどんな目に合わされるやろ。
<3回目>
受付で電話で話した事と同じ事を再度話す。医者は絶対に替えてほしい、という事は念を押して。
「承知しました」と受付は確かに言った。
やっと納得しよった。
だいぶ待たされたが止むをえんやろ。別の医者にしたって予約の間の飛び込みや。
名前を呼ばれて診察室に入り、例の如く助手が前掛けをつけに来る。
「ちょっと待って下さいね。先生、すぐお見えになりますから」
しばらくして、「お待たせしました」と医者が現れる。
な、な、なんと同じ医者やないかい。
あんだけ言うたのに。
担当替えろ、と言われたコイツのはらわたは煮えくり返っとるやろうし、無茶苦茶されてまうがな。
もう帰るしか無いな。と思たその時、
「すみませんでした」と歯医者が深々と頭をさげよる。
ん?反省しとんのか?
「治りましたと言いながら、夜も眠れないぐらいに痛い目に合わせてしまった事をお詫びします」
こない言われたら、帰りづらいやんかいな。
それに反省しとるんやったら、無茶苦茶される心配は無いかもしれん、と帰るタイミングを無くしたまま治療される事となった。
まずはセメントで固めてもうたやつを取っ払ってまわなあかん。麻酔の注射を打った後、ウイーンと埋め込んだものを削り取っただけで無く、口をゆすぐタイミングも与えずにさらにその穴の中を掘り拡げて行く。
そして、
「どうも神経が炎症を起こしている様なんで、神経を全部抜いてしまいます」
やっぱり炎症やないかいな。
こないだ埋めたやつが神経まで到達してて、先端が神経を刺しとったんやろ。
歯の治療っちゅうもんは歯そのものを治して回復させるんやのうて削り取る作業や。
一回ほじくったら、何年かしたらその中が悪なってまたほじくらなあかん様になる。
埋めもんにも耐用年数っちゅうもんがあるやろうからな。その回転があるから歯医者はメシが食える。
どんどん、原型が減って行きよる。しまいには神経まで到達する。
掘るのんが好きなやつに当たってもうたら、そんだけ原型が減らされてまう。
しまいに原型無くなって来たら埋めるんもでけへん様になって被せるになって、さらに原型が無くなると一つの歯に被す事もでけん様になり、隣の歯の助けまで必要になる。
結局、歯は減る一方や。
歯の種でも誰か開発せえへんかな。
歯の種を歯茎の根っこのところに注射したら、そこから歯が生えて来て古い歯と入れ替わるんや。ちょうど、子供の歯が生え替わる様に。
ところで、今回の歯や。
去年さんざん掘られた歯はもうほとんど原型が無く薄焼きのお椀状態。
今は、その仮詰めの状態や。
全部神経抜いたはずやのにまだ少しだけ痛いのはなんでやろ。
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