その(六)
「おい、また来たで」
少年がお腹を押さえて何かを食べる様な仕草で口に手を持っていく動作を繰り返している。
「食べるもんがない、言うてるみたいやな」
「おい、今度は俺の靴に手を置きよる。これはどういう意味や」
「さぁ、お願いします、を表現してんのとちゃうか」
「なんとも、いたいけな子供がこないせなあかんとはなぁ」
と財布に手を伸ばそうとすると。
「あかん、あかん、あっちこっちのガキがみんなこっち見とんぞ。
お前が金なんかやったら、次の瞬間にはあのガキ共全員にわしら囲まれてまうで」
「よっしょ、とりあえず移動しよか」
「付いてきてるで。お前の後ろにぴったりと」
「いや、もう前に来てまた俺の靴に手置いとる」
「よっしゃ、とりあえずこの服屋の市場の中へ入ろか」
そこは両側に屋台の様な服屋が軒を並べる商店街の様な所の入り口。
中へ入ろうとすると子供も付いて入ろうとする。
その時、怒鳴り声と共に鈍い音。
店の大人が少年の顔面目がけてキックを喰らわした。
少年は吹っ飛び、駐車していた車に身体をぶつけた。
そして、泣く事もなく立ち上がり、こちらをじっと見つめている。
立ち上がった彼に車の持ち主が追い打ちをかける様にケリを入れる。
東南アジアでも子供達に囲まれる様な事はよくある。
貝殻で作った首飾りを手に「センエン、センエン」と叫びながら群がって来る。
しかし、地元の大人は決して彼らの仕事のじゃまをしようとはしなかった。
アンタッチャブル「不可触民」という言葉を思いだした。
彼らは何をされても文句が言えない。
逆の立場の人間は彼らに何をしても構わない。
強姦しようが。殺そうが。警察も何も無い。警察も一緒になって殺す側の人間だ。
人間であって人間で無い。家畜同様に扱われる人々。
人権とは・・などという言葉の弄びにしか興味の無い民族の理解を超えている。
商店街の反対側の出口を出るといつの間に来たのか、その少年がまた近寄ってきた。
ポケットの中の数ルピーを出すやいなや、彼はそのルピー札をひったくる様に掴んで
疾風の如く走り去って行った。
「とても、腹へって動かれへんやつとは思えん素早さやったな」
「あいつなんかつぶやいてるで」
『ちょろいもんやで。顔面蹴られんのも計算のうちや。
あの手の連中は蹴られる所を見せたったらイチコロや。
やめられまへんな、この商売。
な、なんやと。えらい同情しとったくせにたったの3ルピーかいな。
こっちは身体張って商売しとんのに。カラチの人間の上行きよるな。あのドケチ根性』
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